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補聴器が売れない本当の理由──カシオが「新カテゴリー」を作って1,200万人市場に挑んだ話

昨日、テレビでカシオの新製品を見ました。

「ガイアの夜明け」で取り上げられていた「earU(イアユー)」という製品です。正直に言うと、最初は「補聴器の話か」と思って、あまりピンとこなかった自分がいました。自分自身、耳が聞こえづらいという経験がほとんどなく、そもそも補聴器というジャンルを真剣に考えたこともなかったからです。

「こんな市場、本当にあるのかな」というのが最初の印象でした。

難聴者1,430万人なのに、補聴器を使っている人は200万人しかいない

興味を持って軽く調べてみたところ、日本には難聴者が約1,430万人いるとされています。一方で補聴器を実際に使っている人は約200万人。つまり、1,200万人以上が「困っているのに補聴器を持っていない」状態にあるということです。

日本の補聴器普及率は約13.5%で、アメリカの30%、イギリスの42%と比べると半分にも届きません。困っている人は確かにいる。でも、多くの人が補聴器に手を伸ばしていない。

なぜか、というと、理由はシンプルでした。「高すぎる」「見た目が嫌だ」「高齢者のものというイメージ」という3つの壁です。本格的な補聴器は片耳で10〜30万円前後することも珍しくなく、両耳そろえれば20〜60万円以上になることも普通です。それだけ出して、かつ目立つ機器を耳につける、というハードルは、特にまだ現役で働いている層には相当高いものだと思います。

カシオのearUが「補聴器でも集音器でもない」と名乗った理由

earUは補聴器ではありません。医療機器でもない。「少し聞こえにくい場面で聞こえをサポートする、ヒアリングアシストイヤホン」というポジションです。価格は税込49,940円。補聴器より大幅に安く、でも一般的なワイヤレスイヤホン(1〜2万円台)よりは高い。

カシオの開発担当者・田村氏はこう語っています。「これまでの機器は高齢者向けというイメージが強く、現役で仕事をしている層の人たちが気軽に使えるものがあまりありませんでした。earUはそういう方たちにフィットする商品として考えています」。

補聴器でも集音器でもない、という立ち位置は意図的なものだと思います。既存の「補聴器」という棚に入ろうとすると、医療機器としての規制・価格・イメージの制約を全部引き受けなければならない。そこに入らず、「ヒアリングアシストイヤホン」という新しい棚を自分たちで作ってしまった。

さらに、デザインの発想も面白かったです。「隠す」のではなく「魅せる」という言葉を使っていました。補聴器は長年「目立たないこと」が美徳とされてきた世界ですが、earUはあえてアクセサリーのように見せることを選んでいます。約10年の開発期間をかけて生み出した、カシオの電子楽器技術と小型実装技術の結晶です。

価格を下げることが、市場そのものを動かすことがある

earUを見ていて、もう一つ考えたことがあります。「価格」というのは本当に強い武器だということです。

たとえば、かつてソフトバンクがADSL(ヤフーBB)を普及させたとき、孫さんは価格を一気に下げることで市場を動かしました。PayPayも、還元率の高さによって短期間で決済市場に食い込んだ。既存のプレイヤーが高い価格帯に居座っている市場に、大幅に安いものを持ち込むのは、それだけで強力な参入理由になります。

earUも同じ構造です。本格的な補聴器の10分の1以下の価格帯で、「少しだけ聞こえが気になってきた」という層にリーチする。すでに困っている1,200万人がいて、価格と見た目の壁が取り除かれれば、動く人は当然出てきます。

マーケティングの世界には「砂漠で水を売れ」という言い方があります。需要のある場所を選ぶことが、努力よりも大きな差を生むという考え方です。市場の選び方次第でゲームのルールは変わります。earUが面白いのは、その市場の選び方と価格設定の組み合わせにあると思います。

「自分が全然知らないジャンル」に、大きなニーズが眠っていることがある

今回、正直に言うと補聴器市場をほとんど知らなかった自分に気づきました。自分には縁がないと思っていたので、調べたことも考えたこともなかったジャンルです。

ただ、ちょっと調べただけで「これだけ困っている人がいるんだ」とわかった。そして「補聴器は高いけど、手軽に試せるものがあれば使ってみたい人は多いだろう」ということも、感覚的に理解できました。

自分が知らないジャンルでも、少し調べれば市場の構造は見えてくる。逆に言えば、「自分が知らなかったジャンル」ほど、まだ誰も整理していない情報がある可能性があります。earUを特集したテレビ番組を見てこれだけ考えが広がるということは、同じ状況の視聴者も相当数いたはずです。

大手がいるから無理、ではなく「大手が手をつけていない場所」を探す

これをWebメディアの話に引き寄せると、構造がそっくりです。

「このジャンル、大手がいるから無理だ」と最初から諦めてしまうケースをよく見ます。でも多くの場合、大手は「市場全体」を取りにいっているため、特定の層の悩みには手が届いていないことがあります。

かつて自分がセブ島留学メディアを立ち上げたとき、フィリピン留学業界には語学学校とエージェントしかいませんでした。どちらも「売る側」の視点で作られており、現地留学生のリアルな情報を提供する場所が一つもなかった。そこに「どちらにも属さないメディア」として参入したことで、半年で検索TOP3に入ることができました。

earUで言えば「補聴器でも集音器でもない」という立ち位置と、まったく同じ発想です。既存の棚に入るのではなく、新しい棚を自分たちで作る。

記事を増やすことが目的ではなく、誰の頭の中にどう記憶されるかを先に設計する。Webメディアを育てるとは、結局そういうことではないでしょうか。

「この分野ならこの会社と思い出される場所を作る。」それがreminisceの考えるWebメディアの役割です。

参考資料:

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