iPhone Duo参入。折りたたみスマホは7年たっても「何が便利か」を一言で言えない

AppleがiPhone Duoで折りたたみ市場に参入。登場から7年以上たっても「何が便利なのか」を一言で説明しにくい理由を、Galaxy、Apple Watch、iPodの事例から考えます。

7年以上売られているのに、「これがあるから欲しい」を一言で説明するのが難しい商品があります。

折りたたみスマホです。

画面が大きい。閉じれば小さい。スマホだけで自立する。外側の画面を見ながら自撮りできる。2つのアプリを並べられる。全部、本当に便利です。

でも一つだけ問題があります。

「で、結局いちばん何がいいの?」

この質問に、まだ短く答えるのが難しい。

2001年にAppleがiPodを発表したとき、打ち出した言葉は非常に明快でした。「1,000曲をポケットに」。5GB、FireWire、自動同期、10時間のバッテリーなど機能はいくつもありましたが、Appleが最初に売ったのは一つの体験です。

出典:Apple「Apple Presents iPod」(2001年10月23日)

一方、折りたたみスマホは2018年にRoyoleのFlexPaiが登場し、Samsungも翌2019年にGalaxy Foldを投入しました。それから7年以上が経っています。

それでも私たちは今なお、この商品を「画面が折りたためるスマホ」という形状で呼んでいます。

2026年9月9日、Appleもついに初の折りたたみiPhone「iPhone Duo」を発表しました。日本では10月23日に発売予定です。

出典:
Apple「Apple、iPhone Duoを発表」(2026年9月9日)

私が気になったのは、端末そのものではありません。

Appleなら、この7年間決まらなかった「折りたたむ意味」を一つに決められるのだろうか。

目次

7年たっても、折りたたみスマホは主流になっていない

折りたたみスマホの市場自体は伸びています。Counterpoint Researchによると、2025年第3四半期の世界出荷台数は前年同期比14%増となり、四半期として過去最高を記録しました。

ただし、世界のスマートフォン出荷全体に占める割合は2.5%です。約40台に1台。登場から7年以上が経っても、まだ主流とは言いにくい位置にいます。

出典:
Counterpoint Research「Global Foldable Smartphone Shipments Hit Record in Q3 2025」

なぜでしょうか。

価格が高い。折り目が気になる。壊れそう。重い。そうした理由はもちろんあります。

ただ、もっと根本的な問題があるように思います。

「折りたためるからこそ何ができるのか」が、一言で定着していません。

iPodなら「1,000曲をポケットに」と言えました。折りたたみスマホの場合、説明しようとすると途端に長くなります。

大画面で動画を見る。ゲームをする。2つのアプリを並べる。スマホを自立させて写真を撮る。外側の画面で自撮りする。

機能はたくさんあります。

でも、「だから折りたたみを買う」という一つの理由には、まだなっていません。

Galaxyには、実はかなりいい使い方がある

ここまで書くと、Samsungが折りたたみスマホの価値を何も見つけられていないように読めるかもしれません。

実際には逆です。

Galaxy Z Flipシリーズには、普通のスマホにはない面白い使い方がいくつもあります。

Galaxy Z Flip8なら、本体を折った状態で置いてハンズフリーで写真や動画を撮ったり、カバー画面を使って自撮りしたりできます。オートズームを使えば、被写体に合わせて自動的に画角も調整されます。

出典:
Samsung Japan「Galaxy Z Flip8」製品ページ

整理すると、「折りたたむこと」から生まれる価値は確かにあります。

折りたたむことで生まれる価値具体的な使い方普通のスマホとの差
大画面を持ち歩ける動画、ゲーム、複数アプリタブレットを別に持たなくていい
スマホ自体がスタンドになる家族写真、動画、ビデオ通話三脚やスタンドがいらない
外側の画面を使える自撮り、撮られる側の確認メインカメラを使いながら画面を確認できる

特に、小さな子どもがいる家庭を想像すると面白いです。

子どもを撮るとき、普通のスマホでは撮られている本人に自分の姿は見えません。Flipならカバー画面を使えるので、撮られる側も自分を確認できます。

スマホを机に置いて動画やビデオ通話をするときも、別のスタンドはいりません。

調べていくと、「これは普通のスマホではできないな」と思う使い方がちゃんとあります。

問題は、それが一つの意味にまとまっていないことです。

フレックスモード。フレックスウィンドウ。オートズーム。自撮り。ハンズフリー撮影。

それぞれは便利です。しかし、機能を一つずつ説明されるほど、「結局これは何のための商品なのか」は逆に見えにくくなります。

折りたたみスマホに足りなかったのは、機能ではなかったのかもしれません。

機能を一つの意味にまとめる言葉だったのではないでしょうか。

折りたたみ好きの人からも「メリットが分からない」という声が出ている

この感覚は、私だけではありません。

ITmedia Mobileが2025年3月に実施した読者アンケートには1,264件の回答が集まりました。

ただし、この数字の扱いには注意が必要です。回答者の58%がすでに折りたたみスマホを使っており、一般消費者全体を代表する調査ではありません。

出典:
ITmedia Mobile「折りたたみスマホに関する読者アンケート」(2025年3月)

むしろ、そこが面白いところです。

折りたたみ端末にかなり関心の高い読者が集まっているにもかかわらず、使わない理由として「折りたたみの利点、意味がイマイチ分からない」という声が出ています。

ほかにも、普通のスマホで困っていない、折りたたみによる新しい体験をメーカーが十分提示できていない、といった趣旨の回答が掲載されています。

出典:
ITmedia Mobile「折りたたみスマホ、使わない理由は?」

もちろん、これを「一般消費者の多くがそう思っている」という証拠にはできません。

ただ、折りたたみスマホについてよく知っている人たちの中からさえ、「なぜ折りたたむのか分からない」という声が出ていることは興味深い。

機能がないからではありません。

機能はある。でも、その機能が「これを買う理由」にまで整理されていない。

ここが重要なのだと思います。

Apple Watchも、最初から答えが一つだったわけではない

では、Appleなら最初から用途を一つに絞れるのでしょうか。

実はそうでもありません。

2015年にApple Watchを発売したとき、Appleはこれを一つの用途だけで説明していませんでした。

正確な時計。コミュニケーションデバイス。健康とフィットネスのパートナー。手首で使うアプリのための新しいデバイス。

さらに18金を使ったApple Watch Editionも用意し、パリのGaleries Lafayette、東京の伊勢丹、ロンドンのSelfridgesや各都市のブティックでも展開しました。つまり、テクノロジーだけでなくファッションや高級時計の文脈も明確に意識されていました。

出典:
Apple「Apple Watch Available in Nine Countries on April 24」(2015年3月9日)

ただし、「最初はファッションで、後から健康に方向転換した」と考えるのも正確ではありません。

健康とフィットネスは初代から重要なテーマでした。初代Apple Watchにはすでに、ムーブ・エクササイズ・スタンドという3つの活動を可視化するリングが搭載されています。

ジョナサン・アイブ氏も後年、Hodinkeeのインタビューで、健康関連機能の基盤となるハードウェアとソフトウェアは開発初期から重要な焦点だったと説明しています。

出典:
Hodinkee「Jony Ive On Apple Watch And More」

ここが面白いところです。

作り手が最初に複数の可能性を持っていること自体は、悪いことではありません。

商品を市場に出す。実際に使われる。どの用途が強く支持されるのかを見る。そして、世代を重ねながら商品やメッセージを磨いていく。

Apple Watchも、発売した瞬間に一つの答えだけを持っていたわけではありません。

だから、折りたたみスマホも最初から一つに絞れなかったこと自体が問題なのではない。

7年以上が経ってもなお、「折りたたむ最大の理由」が市場で定着していないことの方が気になります。

では、iPhone Duoは答えを出したのか

ここでiPhone Duoに戻ります。

Appleの発表を見ると、7.6インチのインナーディスプレイについて、「コンテンツの表示、ゲームプレイ、マルチタスキング」のための大きなキャンバスと説明しています。

Apple自身が、まだ複数の用途を並べています。

出典:
Apple「Apple、iPhone Duoを発表」(2026年9月9日)

つまり、Appleも現時点では「折りたたみスマホとはこれをするためのものです」と一つに決めているわけではありません。

そして、この点を指摘したのは私だけではありません。

iPhone Duo発表翌日の2026年9月10日、Reutersは記事タイトルでこう問いかけています。

「Who is it for?」

誰のための商品なのか。

Reutersの記事でも、Appleが仕事、エンターテインメント、AIなど幅広い可能性を提示する一方、実際に誰が買う商品なのかはまだ明確でないと、複数の業界関係者が指摘しています。

出典:
Reuters「Apple’s foldable iPhone poses a $1,999 question: Who is it for?」(2026年9月10日)

ここが、今回いちばん面白いところです。

Samsungが7年間答えを出せなかったからといって、Appleが登場した瞬間に答えが出るわけではありません。

Apple自身も、まだ市場に問いかけている段階です。

2001年のiPodは、「1,000曲をポケットに」と発表した時点で使う意味がかなり明確でした。

2026年のiPhone Duoは、まだ「コンテンツ・ゲーム・マルチタスク」です。

もしかすると、折りたたみスマホの本当のキラー用途は、まだ発明されていないのかもしれません。

あるいは、すでに誰かが便利に使っているのに、メーカー側がまだその使い方を一つの言葉にできていないだけかもしれません。

自分の商品は、「何のためのもの」と一言で言えるでしょうか

この話は、スマホ業界だけの話ではありません。

自社の商品やサービスでも、同じことが起きます。

SEO対策。記事制作。アクセス解析。サイト改善。内製化支援。AI活用。

全部できます、と書くことは簡単です。

でも顧客から見れば、「で、結局この会社に頼むと何が変わるの?」となります。

機能やサービス内容を5つ並べること自体が悪いわけではありません。

問題は、「で、結局これは何のための商品ですか」と聞かれたとき、その5つを使わず一文で答えられるかです。

確かめる方法は簡単です。

自分たちで考えたキャッチコピーではなく、実際のお客さんに「うちの会社を他の人に説明するとしたら、何の会社と言いますか」と聞いてみる。

「あのSEOの会社」「ホームページを作る会社」と返ってくるなら、まだ業種や提供物で認識されています。

一方、「記事を会社の中で回せるようにしてくれる会社」のように、使った結果で返ってくるなら、そこに答えがあるかもしれません。

自社サービスの説明ページを開いて、特長を数えてみるのもいいと思います。5つあるなら、いきなり削る必要はありません。

まず、「この5つの中で、顧客が本当にお金を払っている理由はどれだろう」と考えてみる。そして、その答えが分からなければ、お客さんに聞く。

2001年のiPodには、「1,000曲をポケットに」がありました。

自分の商品には、それに相当する一文があるでしょうか。

折りたたみスマホの7年以上を見ていると、機能を増やすことよりも、その問いに答える方が難しいことがよく分かります。

で、私はiPhone Duoを買うのか

ここまで偉そうに「何のための商品なのか」などと書いてきましたが、最後に私自身はどうなのか。

欲しいです。普通に欲しいです。

もちろん仕事上の理由もあります。大きな画面を2分割して、片方にWebサイトやプレビュー、もう片方にChatGPTなどを開けるなら、かなり便利そうです。普段から複数の画面を行き来しながら仕事をしているので、「これは効率が上がるかもしれない」と本気で思っています。

一方で、もっとくだらない理由もあります。

新しいものを持ちたい。人より先に使いたい。ちょっと自慢したい。しかも高いから、みんなが簡単に買えない。それも含めて欲しくなる。

マーケティングの記事を書いている人間として、あまり褒められた購買動機ではありません。

気になるのは重さです。毎日持つものなので、ここだけは実際に触ってみないと判断できません。

ただ、今使っているiPhoneもバッテリー最大容量が78%前後まで落ちてきていて、そろそろ買い替えたい時期ではあります。

仕事では使えそう。今のiPhoneもそろそろ限界。そして何より、新しいものをちょっと自慢したい。

こうやって理由を並べ始めた時点で、たぶんもう危ないです。

iPhone Duoは256GBでも364,800円。512GBなら399,800円です。

出典:
Apple「iPhone Duo」公式製品・価格情報

買う容量によっては、ほぼ40万円。

「1,000曲をポケットに」ほど格好いい購入理由はまだ見つかっていないので、最後は清水の舞台から飛び降りる勇気が出るかどうかだけになりそうです。

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