Wi-Fiの設定をAIに任せて気づいた、世界のコールセンターの仕事が減り始めている話

Wi-Fiの設定をAIと解決した体験から、世界のコールセンターの未来を考察。フィリピンBPO産業の成長とAIによる雇用変化を最新データで検証します。

「通信速度は100Mbps以上出ている。それなのにWebページがなかなか開かない。」

先日、自宅のWi-Fiでこんな不可解な現象が起きました。

スピードテストでは十分な数字が出ているのに、ブラウザでWebサイトを開こうとすると、読み込みが止まったり、表示に妙に時間がかかったりします。数値上は速いはずなのに、体感では明らかに遅いのです。

そこで今回、AIのGeminiを使って原因を調べ、設定を見直してみました。設定画面をスクリーンショットで共有しながら、AIに指示をもらって操作を進めていく。最終的にはWi-Fi中継機の設定を変更することで、問題は改善しました。

しかし、今回書きたいのはWi-Fiの設定方法ではありません。

これまで人間のサポート担当者に頼んでいたようなことが、AIとの対話だけで解決できてしまった。

この体験を通じて、世界のコールセンターを支えてきたフィリピンのことを思い出したのです。

目次

設定画面をスクショしてAIに見せる。それだけで問題が解決した

今回のトラブルは、1階にあるWi-Fiルーターの電波を2階まで届けるために設置した中継機で起きました。

インターネットが遅いのであれば回線速度を疑うところですが、測定結果は100Mbps以上。問題はそこではなさそうです。

我が家ではBUFFALOのEasyMeshという機能を使っていました。親機と中継機を一つのWi-Fiネットワークのように扱い、接続先の切り替えを支援してくれる便利な仕組みです。

ただ、今回の環境では、親機と中継機のどちらにつながっているのか分かりにくく、問題の切り分けが難しい状態でした。

そこでGeminiと相談しながら、EasyMeshを使わない個別設定に変更し、親機と中継機のWi-Fi名(SSID)を分けることにしました。

変更前変更後
親機と中継機が共通のSSID親機と中継機を別々のSSIDに
接続先の判別が難しい接続先を自分で指定できる
EasyMeshを利用中継機を個別設定
Webページの読み込みが不安定設定変更後に改善

5GHz帯と2.4GHz帯の両方でSSIDを変更し、仕事部屋のMacは中継機側に接続するようにしました。

これでWebページの表示が安定したのです。

ただし、EasyMeshそのものが不具合の原因だったと証明されたわけではありません。今回はネットワーク構成を変更した結果、問題が改善したという話です。

それ以上に驚いたのが、そこに至るまでの過程でした。

私はWi-Fiの専門家ではありません。メッシュネットワークについても、今回初めて知ったことがたくさんあります。

それでも、設定画面のスクリーンショットをAIに渡して、

「この画面からどうすればいい?」

「ここを変更すればいいの?」

と聞くだけで、実際の画面に合わせた操作手順を教えてくれました。

こちらが設定を変更し、新しいスクリーンショットを渡す。するとAIが状況を判断して、また次の操作を案内してくれる。

従来のGoogle検索であれば、自分で検索キーワードを考え、似た事例を探し、自分の環境に当てはめる必要がありました。

しかし今回、それらの作業のかなりの部分をAIが担当してくれたのです。

「分からないことを検索する」のではなく、「分からない画面をそのままAIに見せる」。

たったこれだけの違いなのですが、実際にやってみると、その便利さには大きな差がありました。

世界のコールセンターを支えてきたフィリピン

今回の体験から、ふと思い出したのがフィリピンです。

私は以前、フィリピンのセブ島に留学していました。その後も親子留学で何度か訪れており、フィリピンという国には個人的にもなじみがあります。

フィリピンは、英語力を生かしたBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)産業が非常に発達した国です。

その代表例がコールセンターです。

アメリカの企業に問い合わせの電話をかけると、実際に対応するのはフィリピンにいるオペレーターだった、という仕組みです。

フィリピンでは英語が公用語の一つで、アメリカとの歴史的・文化的なつながりも強く、米国向けのカスタマーサポート業務で競争力を発揮してきました。人件費もアメリカなどと比較すれば低く、企業にとっては魅力的な委託先だったのです。

実は2010年、フィリピンはコールセンター売上でインドを追い抜いています。

当時のBloombergの報道によれば、フィリピンのコールセンター売上は約57億ドル、インドは約55億ドル。インドの方がITアウトソーシング全体では圧倒的に大きかったものの、コールセンターという分野ではフィリピンが世界有数の拠点に成長していました。

出典:Bloomberg「Philippine Call Centers Overtake India」(2010年12月)

そして、この産業は現在も成長しています。

フィリピンの業界団体IBPAPによると、2025年のIT-BPM産業の売上は約403億ドル。雇用者数は約189万人で、売上・雇用ともに前年を上回りました。

約190万人といえば、ちょっとした都市の人口に匹敵する規模です。それだけ多くの人が、海外企業向けのカスタマーサポートや事務処理、IT関連業務などに従事しているわけです。

ところが最近、この巨大産業に変化が起き始めています。

AIの普及で、世界のコールセンター雇用が減り始めた

2026年10月6日、米国の労働市場分析企業Revelio Labsが興味深い調査を公開しました。

それによると、世界のコールセンター雇用者数は、2023年12月のピークから5.3%減少したそうです。前年同期比での減少も8四半期連続となっています。

長く拡大してきたコールセンター産業に、変化の兆候が現れているのです。

さらに興味深いのが、雇用が減っている理由です。

調査対象となった中所得国では、大規模な解雇が急増したというよりも、新たに採用する人数が減ったことが雇用縮小の主な要因となっていました。

もちろん、これがすべてAIの影響だと証明されたわけではありません。コロナ禍の採用拡大の反動や、企業の経費削減も考えられます。

ただし、同じ国々では他のホワイトカラー職種の雇用が比較的堅調に推移している一方、コールセンターの雇用は停滞・減少しています。

AIが人間の仕事を代替し始めている可能性を考えるには、十分に興味深いデータです。

出典:Revelio Labs「After a Decade of Growth, Global Call Center Employment Is Shrinking」(2026年10月6日)

そして、ここで今回のWi-Fiトラブルの経験がつながります。

以前なら、メーカーのコールセンターに問い合わせて、担当者に画面の状況を説明しながら操作していたかもしれません。

しかし今回は、AIにスクリーンショットを見せるだけで解決できました。

もし、こうした問題を世界中の人が自分自身で解決するようになったら、どうなるでしょうか。

これまで100人のオペレーターが必要だった仕事を、70人、あるいは50人でも回せるようになるかもしれません。

そうなると、企業のサービス利用者が増えても、オペレーターの人数を同じペースで増やす必要はなくなります。

実際にフィリピンでは、それに近い変化が予測されています。

フィリピンでは「売上は伸びるが、人はそれほど増えない」

2026年9月24日、フィリピンのGMA Newsが業界団体IBPAPの最新見通しを報じています。

年IT-BPM産業売上雇用者数
2025年(実績)約403億ドル約189万人
2026年(予測)423億ドル194万人
2027年(予測)450億ドル199万人
2028年(目標)505億ドル214万人

※IT-BPM産業全体の数字。コールセンター以外のIT・専門業務なども含みます。

2026年から2027年の予測では、売上が約6.4%増える一方、雇用は約2.6%の増加にとどまります。

IBPAPのJack Madrid氏も、AIによって売上が従業員数より速く成長する可能性を説明しています。

出典:GMA News「PH IT-BPM revenues seen outpacing workforce growth amid AI adoption」(2026年9月24日)

ここで大切なのは、フィリピンのBPO産業そのものが衰退しているわけではないということです。現在も売上は伸びていますし、今後も雇用を増やす計画があります。

ただし、その中身は変わっていく可能性があります。

単純な問い合わせへの回答やマニュアルに沿った操作案内はAIに任せ、人間は複雑な問題への対応や、より専門性の高い業務へ移行する。

業界側も、データ分析やサイバーセキュリティ、AI関連業務など、高付加価値サービスへの転換を進めようとしています。

しかし、全員が簡単に移行できるわけではありません。

Revelio Labsの調査では、コールセンターから転職した人のうち、技術サポートやカスタマーサクセス、ソフトウェア・データ関連などの比較的高賃金の職種に移った人は10.8%にとどまっていました。

新しい仕事が生まれたとしても、従来の仕事をしていた人がそのまま移れるとは限らない。

産業の売上が伸びることと、そこで働く人たちの仕事が守られることは、必ずしも同じではないのです。

AIが奪うのは仕事なのか、それとも「仕事の一部分」なのか

今回の出来事を通じて、もう一つ考えたことがあります。

AIが普及することで、これまで専門家に頼んでいたことを自分でできるようになるという変化です。

今回のWi-Fi設定がまさにそうでした。

これまでなら、説明書を何ページも読み、Googleで検索して、それでも分からなければメーカーに問い合わせていたと思います。

ところがAIが画面を理解し、次に何をすればいいかを教えてくれたことで、専門知識がなくても自分で解決できました。

これはコールセンターだけの話ではありません。

たとえば、Webサイトの簡単な修正、Excelの関数、プログラムのエラー、パソコンの設定なども同じです。

専門家に依頼しなければできなかったことを、AIの力を借りて自分で処理できる範囲が広がっています。

もちろんAIの回答が常に正しいわけではありません。今回のWi-Fi設定でも、実際に操作し、結果を確認しながら進めることが重要でした。AIは間違った設定を案内することもあるため、セキュリティや重要な業務に関わる操作では特に注意が必要です。

それでも、これまでのように「専門知識がないから、誰かに依頼するしかない」という場面が減っていくことは十分考えられます。

ここで影響を受けるのは、必ずしも仕事全体ではありません。

ある仕事を10の工程に分けたとき、そのうち5つをAIが処理できるようになれば、仕事自体がなくならなくても、必要な人数や求められる能力は変わります。

企業からすれば生産性の向上ですが、そこで働く人にとっては、大きな環境変化になるかもしれません。

AI時代は「人ができること」が増える一方、「人に頼むこと」が減る

今回のWi-Fiトラブルは、ほんの小さな出来事でした。

しかし、AIに画面を見せながら問題を解決しているとき、私は確かに便利になったと感じました。

その一方で、これまで同じ作業を仕事として担っていた人たちは、今後どうなるのだろうとも思いました。

フィリピンのBPO産業は、英語力と豊富な人材を武器に世界のカスタマーサポートを支えてきました。それがAIの普及によって、従来とは違う競争力を求められ始めています。

利用者にとって便利になることは、必ずしもサービスを提供する側の雇用拡大につながらない。

これはAI時代の大きな特徴の一つかもしれません。

これまでの技術革新でも、仕事がなくなる一方で新しい仕事が生まれてきました。今回もそうなる可能性はあります。ただ、その変化がどれほど速く進み、従来の仕事をしていた人たちが新しい仕事へ移行できるかは、まだ分かりません。

一人の消費者としては、AIによって自分でできることが増えるのは歓迎すべき変化です。

しかし、事業を運営する立場から見ると、もう少し複雑な気持ちになります。

人間にしかできない仕事は何か。そして、今まで人間がやっていた仕事のうち、どこまでをAIに任せられるのか。

たった一台のWi-Fi中継機の設定から、そんな大きなことを考えるきっかけになりました。


参考資料

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