年間100万人を集めた施設が、記者会見で「残念ながら思うような数字に至らない結果になっている」と言いました。
2026年7月25日、沖縄県今帰仁村のテーマパーク「ジャングリア沖縄」が開業1周年を迎えた日の会見です。発言したのは運営会社ジャパンエンターテイメントの加藤健史CEO。同じ会見では、初年度の売上高が100億円を超える見通しであること、りゅうぎん総合研究所の試算で経済効果が494億円に達したことも発表されました。数字だけ並べれば悪くありません。それでも、社長自身が未達を認めた。
出典:やんばる経済新聞「『ジャングリア沖縄』が1周年 来場者数100万人、経済効果494億円」(2026年7月27日)、琉球新報「ジャングリア沖縄、1年目の入場者数は100万人」(2026年7月25日)ジャングリアについては「経営がやばいらしい」という話が、あちこちで流れています。ただ、その多くは数字の中身を確かめないまま結論だけが伝わっているように見えます。ここでは公表されている事実をまず並べ、そのうえで、同じ数字から立ち上がるいくつかの見方を整理してみます。私はマーケティングを仕事にしている立場なので、後半は集客の設計として読みます。
1年目に公表された数字は何か
ジャングリア沖縄の初年度実績は、来場者100万人、売上高100億円超の見通しです。損益は公表されていません。会見と各紙報道で確認できる数字を並べます。
| 項目 | 数字 | 補足 |
|---|---|---|
| 年間来場者数 | 100万人 | 隣接するスパを含む延べ人数。パーク単体は非公表 |
| 売上高 | 100億円超の見通し | 営業利益・純利益は非公表 |
| 採算の目安 | 年150万人 | 沖縄美ら海水族館(年300万人超)の半数を想定していた |
| 1日平均 | 2,000人台後半 | 100万人を365日で割った水準 |
| 満足度 | 69.2%(開業月)→ 89.2%(2026年5月) | 運営会社調べ |
| 1人あたり体験数 | 2.3 → 4.5 | 待ち時間は開業当初の約5分の1に短縮 |
| 経済効果 | 494億円 | りゅうぎん総合研究所が産業連関表で試算した生産誘発額 |
| 県内取引額 | 約20億円 | 取引事業者約500社の半数が県内企業、食材の約7割が県産 |
来場者100万人は、スパ利用者を含んだ延べ人数です。パーク単体の数字は出ていません。開業半年時点でスパ単体が10万人と示されていましたが、1周年の会見では非公表でした。延べで数えても、同じ沖縄本島北部にある美ら海水族館の3分の1にとどまります。
出典:日経クロストレンド「ジャングリアのジレンマ 米国でも“同種”のユニバ新テーマパークが物議」(2026年8月)、沖縄タイムス「【記者の解説】ジャングリア開業1年 経営指標の透明性に課題」(2026年7月26日)494億円という経済効果は、扱いに注意が要る数字です。生産誘発額とは、観光客の支出を出発点に、宿泊・飲食・卸売・運送・仕入れ先などで連鎖的に生まれた生産額を積み上げた推計値のことです。ジャングリアの売上でも利益でもなく、県民の所得や自治体の税収が494億円増えたという意味でもありません。開業半年時点のレポートでは、観光消費などの直接効果が198億1,400万円、そこに波及分を加えて322億2,800万円という組み立てでした。倍率にして約1.63倍です。
出典:マネーポストWEB「ジャングリア沖縄、開業1周年で『経済効果494億円』の大きなミスリード」(2026年7月30日)財務はどこまで見えているのか
ジャパンエンターテイメントの確定財務データは、開業前の1期分しかありません。2025年6月期(第7期)の決算公告で、純損益が50億9,800万円の赤字。この期は開業前にあたるため、売上は計上されていません。開業に向けた建設・人件費・マーケティング費の先行投資分です。
出典:沖縄タイムス「『ジャングリア沖縄』の運営会社 開業前の6月期決算、50億円の赤字」(2025年10月16日)初の通年営業となる2026年6月期の決算公告は、この記事を書いている2026年8月13日時点でまだ出ていません。前期が10月15日の公告でしたから、秋が一つの区切りになりそうです。つまり現時点では、売上100億円に対してどれだけの赤字が出たのかを、誰も正確には知りません。沖縄タイムスも「売上高以外の損益などの数字は全て非公表で、経営評価や目標が見えてこない」と、透明性そのものを課題として書いています。
資金の構造も押さえておきます。総事業費は約700億円で、うち366億円が金融機関からの協調融資です。商工中金と琉球銀行が共同アレンジャーを務め、沖縄振興開発金融公庫や全国の地銀を含む13機関が参加しました。契約は2022年9月。内訳は商工中金80億円、琉球銀行50億円、残る11機関で236億円です。ノンリコースローンで、サステナビリティ・リンク・ローンが適用されています。
出典:琉球銀行「沖縄本島北部テーマパークへのシンジケートローン組成について」、日本経済新聞「商工中金など13金融機関、沖縄テーマパークに366億円協調融資」(2023年11月29日)2026年に入ってからは、追加融資が実行されたことを日経が報じています。金額や条件は公表されていません。一方で沖縄タイムスは、ある出資企業幹部の「今の経営状況のままでは、1年も持たない。大改革を行うべきだ」という声を伝えています。同じ時期に、支える側の判断と、危機感を口にする側の声が並んで出ている状態です。
出典:日本経済新聞「それでもジャングリア支援 追加融資の琉球銀『リスク取り地域振興』」(2026年7月23日)、沖縄タイムス「『今の経営では持たない』出資企業に募る不安」(2026年7月28日)なぜ人が来ないのか
来場が伸びない主因は、パークの中身ではなく、沖縄まで行く距離と費用にあります。2026年7月に実施された調査が、その構造を素直に示しています。
マーケティングリサーチ会社「リサート」(インタビュールーム)が首都圏の20〜50代男女800名に聞いた結果です。認知率は68.5%。内訳は「知っていて行ったことがある」が7.3%、「知っている」が61.3%。一方、認知している人のうち今後「行きたい」と答えたのは26.5%で、「行きたくない」が46.7%と上回りました。行かない理由の1位は「沖縄まで行くのが大変」の44.7%。以下、「料金が高い」29.2%、「沖縄では他の観光を優先したい」23.6%、「内容に魅力を感じない」23.1%と続きます。自主調査でサンプルも大きくないため、方向性として読む数字です。
出典:インタビュールーム株式会社「【2026年7月】『ジャングリア沖縄』認知率は全体で7割弱」(2026年7月)、J-CASTニュース「ジャングリア沖縄『行きたくない』が46.7%」(2026年7月31日)コンテンツへの不満(23.1%)より、立地と費用の壁(44.7%)が倍近い。中身が嫌われているのではなく、そこまで行く理由が足りていない、ということだと思われます。
料金の比較も具体的に見ておきます。ジャングリアの1Dayチケットは大人(12歳以上)6,930円、子ども(4〜11歳)4,950円。美ら海水族館は大人(18歳以上)2,180円、高校生1,440円、小中学生710円です。年齢区分が違うため単純比較はできませんが、高校生同士で並べると1,440円と6,930円になります。
出典:ジャングリア沖縄 公式「チケットガイド」、海洋博公園 公式「利用料金」沖縄観光そのものは伸びています。沖縄県文化観光スポーツ部が2026年4月に発表した2025年度の入域観光客数は1,093万5,800人で、前年度比9.9%増の過去最多。観光収入も2025年度は1兆747億円で、初めて1兆円を超えました。市場が縮んでいるわけではありません。
出典:琉球新報「【速報】沖縄の入域観光客が過去最多1093万人 2025年度」(2026年4月27日)、沖縄タイムス「沖縄観光収入、初の1兆円突破」(2026年8月6日)2年目に何が動いているか
運営会社は2年目のコンセプトとして「沖縄の皆さんと、次のジャングリアへ。」を掲げました。県民・地元に軸足を移す方針です。2025年1月の記者会見で、企画会社「刀」の森岡毅CEOがおおよそ5年後の姿として「ゆくゆくはインバウンドが大半を占める顧客構成になる」と語っていたことを踏まえると、はっきりした路線変更です。地元からは「いまさら目線を向けられても」という冷ややかな声も出ています。
出典:琉球新報「“路線変更”県民へアピール強化 訪日客取り込みは道半ば」(2026年7月)、沖縄タイムス「[ジャングリアの現在地](上) 2年目は地元に軸足」(2026年7月28日)ただ、県民シフトは会見より前から始まっていました。2026年5月11日から、沖縄県民限定の特別1Dayチケットを販売しています。通常の1Dayと同じ価格のまま、新ライド「やんばるトルネード」のプレミアムパスとスパの割引チケットが付く内容で、あわせて県内限定のCMも投入されました。
出典:沖縄タイムス(プレスリリース)「ジャングリア沖縄 新アトラクション『やんばるトルネード』をお得にスムーズに!【沖縄県民限定】」(2026年5月11日)チケットは上下に開きました。下は2026年6月10日発表の「ふらっとチケット」で、大人2,970円・子ども1,980円。滞在3時間程度を想定し、対象5アトラクションから1つを体験する設計です。当初は7〜9月分が対象でしたが、公式サイトでは現在も「ご好評につき販売継続」となっています。上は2026年8月6日発表の「ロイヤルチケット」で、大人29,700円・子ども26,400円。パーク&スパにプレミアムパス4つと5種の特典が付きます。
出典:日本経済新聞「ジャングリアが半額以下のチケット 大人2970円、乗り物は1つ限定」(2026年6月10日)、株式会社ジャパンエンターテイメント「ゲストの多様な旅スタイルに応えたチケットラインアップ拡充」(2026年8月6日)ふらっとチケットの背景として、運営会社は日経の取材にこう説明しています。開園当初は6時間程度の滞在を想定していたが、実際には団体旅行などで3時間ほどで他施設へ移動するケースがあった、と。想定滞在時間の読み違いを、商品の側で追認した形です。
設備面では、2026年1月に「グラビティドロップ」、4月29日に初の大型ライド「やんばるトルネード」が加わりました。暑さ対策も段階的に進めていて、6月19日からは大型ショー会場の後方に264席の休憩スペースを新設。団体客から「集団で利用できる食事スペースがあれば旅行先として選択しやすい」という声が寄せられていた、という説明が付いています。
出典:株式会社ジャパンエンターテイメント「2026年の暑さ対策 第二弾 日陰で涼しく飲食できる大型休憩スペースの新設」(2026年4月23日)ここまでが、確認できる事実です。ここから先は、同じ数字をどう読むかの話になります。
「やばい」と読む根拠は何か
苦戦を強調する立場の根拠は、目標との差と、情報開示の少なさの2点に集約されます。
まず、採算の目安が150万人で実績が100万人。しかもスパを含んだ延べです。3分の1が足りない状態で、その不足分を新アトラクション1つで埋めるのは容易ではありません。次に、366億円の借入がある事業で、損益が一切公表されていない。売上100億円という数字だけが出て、そこから何が残ったかは示されない。出資企業の幹部が危機感を口にしている状況で、判断材料が外から見えないというのは、それ自体が不安の材料になります。
さらに、母体である「刀」の側にも動きがありました。同社が運営していたイマーシブ・フォート東京は、2026年2月28日に営業を終了しています。理由として「これまでに学び得た最適な事業モデルに照らした結果、施設の規模が過大である」と説明されました。2024年3月の開業から約2年です。ジャングリアとは別事業ですが、企画者の見立ての精度という点で、地続きに語られやすい出来事だと思われます。
出典:4Gamer.net「エンタメ施設『イマーシブ・フォート東京』,2026年2月28日に営業終了」(2025年12月25日)「そこまでではない」と読む根拠は何か
一方で、同じ数字から穏やかな結論を引き出すこともできます。こちらの根拠は4つあります。
単価は取れている可能性があること。 売上100億円超を来場100万人で割ると、1人あたり約1万円です。1Dayチケットが6,930円ですから、物販・飲食・プレミアムパス・スパを足した単価としては、低くありません。ここから読めるのは「安売りして苦しい」ではなく「単価は成立していて頭数が足りない」という構造です。2026年8月に29,700円のロイヤルチケットを投入したのは、この読みと整合します。頭数が伸びないなら、来た人からより深く受け取る。ただし売上は見通し、来場者はスパ込みの延べですから、この割り算はあくまで粗い推計です。
改善は済んでいること。 満足度が開業月の69.2%から2026年5月の89.2%まで動き、1人あたりの体験数が2.3から4.5に増えています。待ち時間も約5分の1です。中身が直らないまま客が減っているのと、中身は直ったのに評判が追いつかないのとでは、打ち手も見通しもまったく違います。ジャングリアは後者に見えます。
取り込み率で見ると、まだ届く距離であること。 入域観光客1,093万人に対して来場100万人なので、およそ9%。11人に1人が寄っている計算です。採算ラインの150万人なら約14%で、7人に1人になります。数字の上では5ポイントですが、意味としては「選択肢の一つ」から「沖縄に行くなら寄る場所」への移動です。美ら海水族館の300万人超は約27%にあたります。開業1年でそこに届かなかったこと自体は、むしろ順当だという見方もできます。
支える側が降りていないこと。 2026年に追加融資が実行され、琉球銀行は地域振興のためにリスクを取るという立場を表明しています。366億円を出した金融機関団にとって、ここで手を引くことは自分の債権を毀損することでもあります。利害が一致している間は、資金が突然止まる展開にはなりにくいでしょう。もっとも、これは「支えられている」という意味でもあり、自立して回っている証拠ではありません。
数字のねじれをどう見るか
いちばん気になるのは、経済効果494億円と、非公表の損益とのねじれです。
地域には494億円の生産誘発があったと発表される。一方で、事業会社の売上は100億円で、利益は明かされない。地域には効いているが、会社には残っていないかもしれない。この構図は、地元の支持を集めるうえでは有利に働きます。けれど、追加出資を求める場面ではほとんど武器になりません。「今の経営状況のままでは1年も持たない」という出資企業幹部の声と、494億円という発表が同じ週に並んだのは、そのねじれがそのまま表に出た場面だったのでしょう。
もう一つ、認知と来訪のねじれもあります。認知率68.5%に対して、来訪経験率は7.3%。認知した人のうち実際に行った人は、およそ11%です。ここから言えるのは、認知施策はもう十分に効いている、ということです。テレビでも取り上げられ、有名YouTuberも訪れ、開業前から話題は行き渡っていました。それでも来訪意向が26.5%にとどまる。残っているのは、広告では動かせない「距離と費用」という物理的な障壁です。
そう考えると、ふらっとチケット(2,970円で3時間、旅程に割り込む)と県民限定チケット(移動コストがそもそもゼロの層に売る)は、どちらも障壁を回避する設計として筋が通っています。認知を増やす施策ではなく、行けない理由を消す施策です。
集客の設計として何が読み取れるか
ジャングリアの1年目から取り出せる論点は、「棚がまだ決まっていない」という一点だと思われます。
沖縄という市場には、すでに強い棚があります。海、そして美ら海水族館です。旅行者の頭の中では、沖縄に行く理由がここで大半埋まってしまう。そこに「やんばるの森」と「恐竜」が入ってきたとき、それがどの棚の何なのかが、まだ言語化されていません。認知はある。満足度もある。けれど「沖縄に行くならここに寄る理由」が一言で言えない。認知68.5%で「行きたくない」46.7%という数字は、認知はあるのに意味づけがない状態の典型に見えます。
これはWebでも同じことが起きます。指名検索は増えているのに問い合わせが増えない。記事のPVは伸びているのに商談にならない。そういうとき、私はまず「認知が足りないのか、転換が足りないのか」を分けて数えるところから始めます。認知が足りていないなら露出を増やす価値がありますが、認知が足りていて転換が落ちているなら、露出をいくら足しても数字は動きません。障壁のほうを消しにいく必要があります。
そして、その障壁は「もっと知ってもらう」で消えることが少ない。値段、距離、手間、比較のしにくさ。ジャングリアが2,970円のチケットを作り、県民に絞った商品を出したのは、露出ではなく障壁に手を入れた動きです。改善したことを告知するより、行けない理由を1つ潰すほうが早い。この順番は、オウンドメディアの立て直しでもそのまま当てはまるのではないでしょうか。
この先、何を見れば判断できるか
判断材料がはっきりするのは、2026年6月期の決算公告が出るタイミングです。前期が10月15日でしたから、2026年の秋が目安になります。売上100億円に対して、どれだけの損失が出たのか。減価償却と金利負担を吸収できる構造に近づいているのか。ここが出るまでは、外側からの「やばい」も「大丈夫」も、どちらも推測の域を出ません。
あわせて見ておきたいのは、2年目の来場者数の出し方です。1年目はスパを含む延べで100万人という発表でした。2年目にパーク単体の数字を出してくるかどうかは、経営の自信を測る一つの目安になると思われます。
数字が出そろっていない段階で結論を急ぐと、たいてい外します。ジャングリアの話が面白いのは、同じ100万人という数字から「目標の3分の2しかない」とも「1人1万円を落とす施設が1年で立ち上がった」とも読めるところです。どちらの読みが正しいかは、次の決算と2年目の集客が教えてくれるでしょう。
最後に、数字とは別の話を一つだけ書かせてください。
国や自治体の主導ではなく、一つの民間の会社が旗を振って、700億円を集め、60ヘクタールの土地にテーマパークを一から立ち上げた。この事実そのものが、なかなかできることではないと思っています。私は14年この仕事をしていますが、扱う金額の桁も、抱えるリスクの重さも、比べものになりません。うまくいかない部分を外から指摘するのは簡単で、実際にこの記事もその材料を並べています。それでも、やった人だけが持てる数字と経験が、いまジャングリアには積み上がっているはずです。1年で満足度を69.2%から89.2%まで動かしたのは、その積み上げが機能している証拠でしょう。個人的には応援しています。
私たちがWeb集客の仕事でやっているのも、結局は同じことです。順位やPVという見えやすい数字の裏で、認知が足りないのか、転換が足りないのか、棚が決まっていないのかを分けて見る。そのうえで、時間をかけて立ち位置を作っていく。検索順位だけでなく、顧客の頭の中にポジションを作る、というのはそういう作業だと考えています。
なお、ジャングリアの経営をめぐる状況は現在進行形で動いています。ここに書いた内容は2026年8月13日時点で公表・報道されている情報にもとづくもので、現時点における判断材料の一つとして読んでいただければ幸いです。とくに損益は非公表のため、決算公告の内容によって見え方が変わる可能性があります。















