2019年に大流行したタピオカ。街中に専門店ができ、長い行列ができていたのを覚えている方も多いのではないでしょうか。しかし、ブームが落ち着くにつれて多くの専門店が姿を消していきました。そんな中、今も成長を続けているのがゴンチャです。
ゴンチャ ジャパンの2025年5月の公式発表によると、2019年から2024年にかけて年間延べ来店客数は約1.7倍の3,012万人に増加しました。なぜタピオカブーム後も成長できたのでしょうか。
経営や消費者の口コミを調べるうちに、一つ気になったことがあります。ゴンチャの競合って、本当に紅茶専門店なのでしょうか? 例えばスターバックスのフラペチーノ。どちらも600円前後で楽しめる、少し贅沢な甘いドリンクです。「紅茶かコーヒーか」よりも、「今日はフラペチーノか、ゴンチャか」と選ぶ人もいるのではないでしょうか。
調べてみると、ゴンチャの経営陣も日本展開の早い段階からコーヒーチェーンを競争相手として捉えていました。そしてタピオカには、「飲むおやつ」ともいえる別の魅力も見えてきます。
ゴンチャはなぜタピオカブーム後も成長できたのか?
まずは成長を数字で確認します。
| 時期 | 主な出来事・実績 |
|---|---|
| 2015年 | 日本1号店を原宿に出店 |
| 2019年末 | 国内57店舗。タピオカブームで認知が拡大 |
| 2021年 | 国内100店舗に到達。角田淳氏が社長就任 |
| 2024年末 | 国内176店舗。2024年にはコーヒー販売を原則終了 |
| 2025年5月 | 国内195店舗を予定。年間延べ来店客数3,012万人を発表 |
| 2026年8月 | 国内245店舗を発表 |
店舗数は『ビジネスチャンス』の2025年取材、2025年5月の公式発表、2026年8月の公式発表などを参照しました。
2019年末の57店舗から2024年末の176店舗へ、店舗数は約3.1倍に増えています。一方、同期間の年間延べ来店客数は約1.7倍。店舗数は年末時点、来店数は年間合計なので単純比較はできませんが、購入できる場所を増やしたことも成長の重要な要素だったと考えられます。延べ来店客数だけでは、新規顧客とリピーターの内訳までは分かりません。
2021年に角田社長が就任し経営改革を進めましたが、ゴンチャの社長就任に関する公式発表を見ると、就任前の7月にはすでに100店舗に到達しています。ブームが終わって突然紅茶専門店に変わったのではなく、もともとお茶を中心にしていたブランドが、認知や商品力を生かして拡大してきたと捉えるのが自然でしょう。
タピオカは今でも主力商品だった
興味深いのは、ITmedia ビジネスオンラインによる2025年6月の経営陣取材です。現在も顧客の約7割がタピオカを注文していると紹介されています。ブーム当時の約9割からは下がりましたが、依然として人気です。
2025年には従業員が考案した商品をSNS投票で選ぶ「クルーチャンピオンシップ」も開催されました。ゴンチャ ジャパンの公式発表によると、総投票数47,412票のうち、13,032票を集めて1位になったのは「台湾豆花の贅沢ミルクティー」。もちもちしたタピオカと、ぷるぷるした豆花を組み合わせた商品です。
もちろんこれは購入実績ではなく、投票に参加したファンの好みです。それでも、お茶の品質だけでなく、タピオカやスイーツの食感を楽しむ価値も評価されていることがうかがえます。ゴンチャはタピオカを捨てたのではなく、その魅力を残しながら、お茶とトッピングの選択肢を広げてきたのではないでしょうか。
なぜゴンチャはスターバックスを競合と考えていたのか?
今回最も興味深かったのが、マイナビニュースが2018年9月に掲載したゴンチャ日本法人・葛目良輔氏へのインタビューです。スターバックスで約10年間働いた経験のある葛目氏は、コーヒーが苦手でもスタバのブランドが好きな人が多いことに着目したそうです。
そして、コーヒーチェーンを10回利用するうちの1回をゴンチャに切り替えてもらうという考え方を語っています。当時の外部機関による店舗体験調査では、比較対象として約半数がスタバ、約7割がスタバを含むカフェチェーンを挙げ、ティー専門店は約3割だったと説明しています。
ただし、調査人数や回答者の抽出方法は公表されていません。また、スタバ全体との比較であって、フラペチーノ単体との比較ではありません。それでも、2019年のタピオカブーム前から、ゴンチャはコーヒーチェーンの購買機会を狙っていたという事実は重要です。
2022年、2025年にもデザートドリンク市場を意識
ITmediaの2022年8月の取材では、ゴンチャ側が狙う市場はペットボトルのお茶ではなく、高価格帯のプレミアムカフェ市場だと説明しています。同社による推計は約7,000億円。そのうち約3,000億円がフラペチーノなどのデザートドリンク市場だというのです。
さらに、『ビジネスチャンス』の2025年の角田社長インタビューでも、デザートドリンク市場は狙いやすい市場と説明されています。市場規模はゴンチャ側が示した推計で、独立した統計として裏付けられた数字ではありませんが、競争相手についての考え方が長年一貫していることが分かります。
一方、Yahoo!知恵袋の2025年4月の一般利用者の回答には「タピオカ屋ってよりジュース版スタバみたいな認識」という言葉もありました。少数の口コミから一般化はできませんが、企業側と消費者側の認識が重なっているのは面白いところです。

ゴンチャは「飲むおやつ」というポジションも狙えるのではないか?
では、同じような価格帯で、フラペチーノとゴンチャは何を競っているのでしょうか。ゴンチャ公式メニューではブラックミルクティーMが500円。2026年2月の価格改定により、パールを追加すると590円です。スターバックス公式メニューのキャラメル フラペチーノTallは店内飲食610円から。容量も製法も異なりますが、同程度の予算で購入できる商品です。
フラペチーノは冷たさやクリーミーさを楽しむデザートドリンク。一方、ゴンチャのタピオカ入りミルクティーには、お茶の香りに加えて、もちもちしたものを噛む楽しさがあります。
例えば午後3時、少し小腹が空いたけれどケーキを食べるほどではない。そんなときタピオカ入りのゴンチャは魅力的な選択肢になるかもしれません。Yahoo!マップのゴンチャ店舗への口コミにも、小腹を満たす目的で利用したという投稿があります。
もちろん、フラペチーノより腹持ちがよいと証明されたわけではありません。注目したいのは栄養学的な優劣ではなく、「飲みながら食べる」という体験です。そう考えると、ゴンチャはフラペチーノだけでなく、ドーナツやアイスクリーム、コンビニスイーツとも購入場面が重なる可能性があります。
「甘い飲み物が欲しい」だけでなく、「ちょっと甘いものを食べたい」という需要も取り込める。 ここに「飲むおやつ」というポジショニングの面白さがあると思います。
競合の捉え方が変わると、売上の伸ばし方も変わる
もし私がゴンチャのマーケティングを担当するなら、茶葉の品質だけで勝負することは考えません。もちろん品質は重要ですが、消費者はいつも本格的な紅茶を探しているわけではないからです。「午後に小腹が空いた」「友達と何か飲みたい」「少し贅沢な甘いものが欲しい」。そうした場面で選択肢に入ることにも、大きな意味があります。
ITmediaの2025年の取材では、座席のあるカフェ型とスタンド型の店舗を展開している一方、注文のほとんどはテイクアウトだと説明されています。ゆっくり座って紅茶を飲むことだけが利用目的ではありません。
タピオカブームで獲得した認知を土台に、商品と購入できる場所を増やし、さまざまな購買場面で選ばれるようになった。これはゴンチャの成長を説明する一つの仮説です。エーレンバーグ・バス研究所によるカテゴリー・エントリー・ポイントの解説――商品を買いたい場面でブランドが思い出されるという考え方とも重なります。ただし、成長にどれほど寄与したかは分かりません。
今回改めて感じたのは、競合は企業が属する業種だけでは決まらないということです。本格的な紅茶を飲みたいときと、午後に少し甘いものが欲しいときでは、頭に浮かぶ競合が変わります。Webマーケティングでも、同じ業種のサイトばかり見ていると、消費者が実際に比較している相手を見落としてしまうかもしれません。
ちなみに、ここまでタピオカ入りミルクティーについて考えていたら、私自身もちょっと飲みたくなってきました。これも「飲むおやつ」という購入場面を思い出した結果なのでしょうか。
