失敗したスタートアップの「死因」を集計したデータがあります。
1位は、資金切れではありませんでした。42%の会社が、同じ一つの理由で死んでいたのです。
今日はこのデータを入り口に、AI時代の「効率」と「何をやるか」について考えてみます。
スタートアップの死因1位は、何か?
米国の調査会社CB Insightsは、失敗したスタートアップの創業者たちが自ら書いた「検死報告(ポストモーテム)」を分析してきました。2014年から2021年にかけて110本以上の報告を集計した結果、死因の1位は「市場に必要とされていなかった(No Market Need)」で、42%。つまり、作ったものを、誰も欲しがっていなかった。資金切れ(29%)を大きく引き離しての1位です。
出典:CB Insights「Startup Failure Post-Mortems」、CB Insights「Why Startups Fail: Top Reasons」| 順位 | 失敗の理由(複数回答) | 割合 |
|---|---|---|
| 1位 | 市場に必要とされていなかった | 42% |
| 2位 | 資金が尽きた | 29% |
| 3位 | チームに問題があった | 23% |
| 4位 | 競合に敗れた | 19% |
この調査で見落とせないのは、資金切れの扱いです。CB Insightsが2024年に、2023年以降に倒れたVC出資企業431社へと対象を4倍に広げて再分析したところ、「資金が尽きた」を挙げた企業は70%にのぼりました。しかし同社は、資金切れは物語の「結末」であって根本原因ではない、と整理しています。根本のほうは、プロダクトマーケットフィットの欠如が43%で、やはり1位。10年経ち、データを4倍にしても、順位はほぼ動きませんでした。
出典:CB Insights「Why Startups Fail: Top Reasons」要らないものを作れば、売上が立たず、やがてお金が尽きる。資金切れは死因というより、症状に近い。そして注目したいのは、このランキングに「作るのが遅かった」「効率が悪かった」が上位に入っていないことです。多くの会社は、遅いから死ぬのではなく、要らないものを速く作って死んでいる、ということだと思われます。
効率を上げれば、稼げるのか?
世の中は、効率化の道具であふれています。時短術、仕事術、効率化アプリ、そして生成AI。私も日々使っていますし、恩恵もたっぷり受けています。ただ、この空気に対して、ちょっと待ってくれよ、と思うところもあるのです。
よくよく考えてみると、効率だけで言えば、タイピングが世界で一番速い人は、世界で一番効率よく文字を打てる人です。では、その人が世界で一番稼いでいるでしょうか。おそらく、違うはずです。
コンビニも同じです。オペレーションの効率で言えば、コンビニは仕組みの塊で、あれほど磨き込まれた店舗はなかなかありません。けれど、商売としてコンビニ1店舗が一番稼げるかといえば、そうではないですよね。
逆のケースもあります。私の周りには、パソコンの操作すらおぼつかないのに、業績を伸ばしている経営者が普通にいます。効率と稼ぎは、私たちが思っているほど、強くはつながっていないのだと思われます。
これは体感だけの話ではありません。経済学者のフォスター、ハルティワンガー、サイバーソンの3氏が、コンクリート製品など「どこで作ってもほぼ同じ製品」を作る米国の工場を分析したところ、物理的な生産効率だけでは工場の生存を説明できず、需要側の要因、つまり収益性が生き残りを大きく左右していました。効率のいい工場でも、需要に恵まれなければ市場から退出していたのです。
出典:Foster, Haltiwanger & Syverson「Reallocation, Firm Turnover, and Efficiency: Selection on Productivity or Profitability?」(NBER Working Paper 11555)AIは「飛車角」。ただし、攻める場所を間違えると働かない
生成AIで、作る・調べる・書くの効率は、はっきり上がりました。私自身、仕事の速度が上がった実感があります。将棋でいえば、飛車と角を一気に手に入れたようなものです。
ただ、飛車角がどれだけ強くても、攻める場所を間違えれば勝てません。成果は「何をやるか」×「どれだけ速くやるか」の掛け算で決まります。前者がゼロなら、後者を何倍にしてもゼロのままです。
むしろAIで全員の「速くやる」が底上げされるほど、差がつく場所は「何をやるか」の側に寄っていきます。AIにいくら投資し、どれだけ使いこなせるようになっても、その手前の「AIで何をして、誰に売って、どう儲けるか」を間違えていれば、42%の側に速くたどり着くだけになりかねません。
無一文の億万長者は、最初に何をしたのか?
この「何をやるか」の選び方を、行動で見せてくれた人がいます。
ディスカバリーチャンネルの番組「Undercover Billionaire(億万長者の挑戦)」で、実業家のグレン・スターンズ氏は、正体を隠し、100ドルと古いトラック、スマホ1台だけで、90日以内に100万ドル規模の会社を作る挑戦をしました。知り合いが一人もいない街で、名前も実績も使えない状態からのスタートです。
出典:【億万長者の挑戦】正体隠して1億円稼げ!(ディスカバリーチャンネル・YouTube)序盤、彼がやったのは、事業計画づくりでも商品開発でもありませんでした。小さな仕事や転売で、まず手元の現金を増やしていくのです。その一つが、捨てられたタイヤ探しでした。ゴミの山から価値のあるタイヤを選び出して売り、最初の資金に変えていきます。
この動き方は、彼が公言している原則そのものです。多くの人は「何を売りたいか」から考えはじめますが、グレン氏は「誰が、何をすでに欲しがっているか」の側から動く。彼は番組を通じて、まず買い手を見つけよ、ビジネスを先に作るな、という趣旨を繰り返し語っています。この原則は、本人が自身のFacebookでも発信しているものです。
出典:Glenn Stearns氏のFacebook投稿「Find your buyer first. Don’t build a business…」売り物より先に、買い手がいる。順番はこれだけです。そしてこの順番こそ、42%の会社ができていなかったことでした。
| 売りたいものから始める | 買い手から始める | |
|---|---|---|
| 出発点 | 自分が作りたいもの・売りたいもの | すでに欲しがっている人 |
| 作る前の確認 | 「きっと需要はあるはず」 | 「誰が買うか」を先に特定 |
| 効率が上がると | 要らないものが速く積み上がる | 売れるものが速く届く |
| 典型的な結末 | 市場に必要とされず退場(42%) | 小さくても売上が立つ |
「どうやるか」の前に、「何をするか」
AIで効率を上げる前に、「誰が、すでに欲しがっているか」を一つ決めておく。私が何かを始めるなら、まずここからスタートします。新しい事業でも、オウンドメディアの記事一本でも、順番は同じです。売りたいものではなく、すでに存在する欲しがりから逆算してみる。グレン氏がゴミの山からタイヤを選んだ基準も、CB Insightsの42%が欠いていたものも、突き詰めればこの一点でした。
私がコンサルの現場で最初に問うのも、実はこれと同じです。「今、あなたはどの市場で戦っていますか?」。正しい市場を選ぶことが、能力や努力よりも大きな差を生む。どうやるか(HOW)の話は、何をするか(WHAT)が決まってからで、十分間に合います。
検索順位だけでなく、顧客の頭の中にポジションを作る。そのポジションは、あなたが売りたい場所ではなく、誰かがすでに欲しがっている場所に作るものです。Webメディアを、会社の中に育てる。その一歩目も、書きたい記事ではなく、読みたい人がすでにいる記事から始まるのではないでしょうか。
なお、本文中の調査データは、CB Insightsが2014〜2021年および2024年に発表した分析にもとづいています。スタートアップやAIを取り巻く環境は変化が続いているため、数字は現時点の判断材料の一つとしてお読みいただければと思います。













