妻は痩せているのに、肥満だと言われました。
正確には「隠れ肥満」です。見た目は細いくらいなのに、体脂肪率だけが高い状態のことを指します。厚生労働省のe-ヘルスネットでも、BMIが標準でも筋肉や骨に比べて脂肪が多い状態を隠れ肥満と呼び、とくに若い女性に多いと説明されています(厚生労働省 e-ヘルスネット「肥満と健康」)。妻の場合、主な原因は筋力がなさすぎることでした。
検査を受けるまで、本人も僕も気づいていなかった
これは、きちんと病院に行って検査を受けたからわかったことです。検査を受けるまでは、本人も、隣で見ている僕も、まったく気づいていませんでした。
体重計に乗れば数字は出ます。けれど体重が標準なら「問題なし」と思ってしまいます。家庭用の体脂肪計もありますが、あれは体の水分量で数値が動くため、同じ時間・同じ状態で測らないと目安になりにくいと、これも厚労省が注意を促しています(厚生労働省 e-ヘルスネット「体脂肪計」)。つまり、ふだん目にしている数字だけでは、体の中で何が起きているかは案外わからないのです。
痩せているほうが、危ないことすらある
ここで、少し驚く研究を紹介させてください。
順天堂大学の研究チームが、18〜29歳の痩せた女性(BMI 18.5未満)を調べたところ、食後に血糖値が高くなる「耐糖能異常」——糖尿病の予備軍とされる状態——の割合が13.3%でした。標準体重の女性は1.8%でしたから、痩せた女性のほうが約7倍も高かったことになります。しかもこの13.3%という数字は、アメリカの肥満者の割合(10.6%)すら上回っていました(順天堂大学ニュース)。
痩せているのに、肥満の人より数字が悪い。ここが今日いちばん持ち帰ってほしいところです。同じ研究チームは、痩せた若年女性の多くが「食べる量が少ない・動く量が少ない・筋肉量が少ない」という“エネルギー低回転タイプ”であり、筋肉の量と質の低下が高血糖と関わっていることも示しています(順天堂 GOOD HEALTH JOURNAL、順天堂大学プレスリリース(2018))。
見た目は健康そのもの。でも、数字を出して初めて、隠れていた状態がわかる。妻の隠れ肥満も、まさにこれでした。
「じゃあ明日から筋トレして」では、人は動かない
とはいえ、数字がわかったからといって、話はそこで終わりません。
「体脂肪率が高いから、明日から筋トレして」「ランニングしよう」と言っても、人はそう簡単には動いてくれません。これは妻が悪いのではなく、人間はそういうものだと思います。正しいことを言われることと、その人が実際に動き出すことは、まったく別の話だからです。
正論を渡すだけでは、腰は上がりません。まず必要なのは、本人が「これはちょっとまずいかもしれない」と自分で思うこと。つまり、自覚です。
まずやったのは、手頃な万歩計で数字を見せることだった
そこで僕がやったのは、いきなり運動をさせることではありませんでした。千円台で買える腕時計型の歩数計を用意して、まずは毎日の歩数を数字で見てもらうところから始めました。
これには根拠があります。歩数計に関する研究をまとめたJAMAの系統的レビュー(Bravataら, 2007)では、歩数計を使った人は使わない人より1日あたり約2,000歩多く歩くようになり、活動量はもとの状態から平均で26.9%増えたと報告されています。さらに、「1日1万歩」といった目標を持っていることが、活動量が増えるかどうかの重要な予測因子だったとされています(PubMed(JAMA 2007;298(19):2296-304))。
数字が目の前に出ると、「今日は少なかった」「昨日より歩けた」がわかります。この“わかる”が、行動が変わっていく最初のスイッチになります。
ただし、「測るだけ」では足りない
正直に言うと、「測りさえすれば解決する」というほど単純でもありません。
たとえば、体重を毎日測るように指示しただけのランダム化比較試験では、効果がはっきりとは出なかった、という報告もあります(自己体重測定のRCT(BMC))。一方で、目標設定やフィードバックと組み合わせると有効だった、という研究は複数あります(セルフモニタリングの系統的レビュー)。
ここから見えてくるのは、「測る」だけで足りるわけではなく、「測る → 数字で自覚する → 小さな目標を持つ → 動く」がひとつのセットになっている、ということです。妻の場合も、万歩計をつけて数字を眺めるだけでなく、確認して、少しずつ歩数を増やしていく、という流れになりました。まず現状を数字で自覚し、それを定期的に置き続ける。ここが出発点でした。
これは、成果の出ないオウンドメディアと同じ構造です
ここまで健康の話をしてきましたが、僕がこの一件でいちばん考えたのは、実は仕事のことでした。
成果の出ていないオウンドメディアの現場に入ると、よく似た光景に出会います。「とにかく記事を増やそう」「新しい施策を打とう」と、みなさん動こうとされます。熱意は素晴らしいのですが、その前に、今の検索順位はどうなっているのか、どのページにどれくらい人が来ているのか、そこからどれだけ問い合わせや申し込みにつながっているのかを、数字で把握できていないことが少なくありません。
体重が標準だから安心してしまうのと、記事本数が増えているから前に進んでいる気になってしまうのは、どこか似ています。表に見えている数字だけでは、中で何が起きているかはわからない。まず現状を数字で出して、自覚する。改善に手をつけるのは、そのあとではないでしょうか。
具体的にどの数字をどう追うかは、状況によって変わるのでここでは踏み込みませんが、大事なのは順番です。動くことより先に、測って、今どこに立っているのかを知る。これは体も事業も変わらないと思っています。
腰が重いときほど、最小の計測から始める
最後に、これは自分自身の仕事にも当てはまる話です。
やりたいこと、やったほうがいいことは、いつも山ほどあります。それでも腰が重くて動けない日がある。そういうときこそ、いきなり大きく始めようとせず、最小限で確認できる単位から測り始めるのがいいと、僕は考えています。完璧な計画を立ててから動くより、小さく測って様子を見るほうが、結局は前に進みます。
妻に渡したのは、千円台の万歩計ひとつでした。大がかりなことは何もしていません。それでも、数字を毎日見るという小さな習慣が、「何かしないとまずいかも」という自覚を連れてきてくれました。
事業のメディアも、同じだと思います。派手な施策の前に、まず現状を数字で置き続ける。地味ですが、ここが育っていく土台になります。
Webメディアを、会社の中に育てる。










