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「酷暑日」14,800件、「クールケーション」0件の差

PR TIMESで「クールケーション」と検索すると、星野リゾートのリリースが2年分並びます。

2025年7月8日に「今年の夏はCoolcation(クールケーション)」と題した避暑旅の提案を出し、2026年7月14日には実測気温データをもとにした施設ベスト5を出しています。オーストラリア政府観光局も2026年7月2日に「猛暑を逃れる世界的な新トレンド」としてこの言葉を使いました。発信する側は、もう2年もこの言葉を掲げています。

出典:星野リゾート「今年の夏はCoolcation」(2025年7月8日)星野リゾート「猛暑対策に最適なクールケーション」(2026年7月14日)オーストラリア政府観光局(2026年7月2日)

それでも、この言葉を検索している人は、ほとんどいません。

夏の旅行需要は、本当に涼しい方へ動いたのか?

夏の旅行需要は、涼しい場所へ動いています。まずここは、複数のデータが同じ方向を指しています。

アゴダが2026年7月21日に発表した分析では、夏後半に向けて宿泊検索が伸びた避暑地のトップは蓼科高原で277%増、以下、富良野229%増、湯沢202%増、軽井沢161%増、松本・上高地133%増と続きました。この数字は前年比ではなく、2026年1〜3月に検索された4〜6月チェックイン分と、4〜6月に検索された7〜9月チェックイン分を比べたものです。夏が近づくほど、涼しい場所が探されていた、ということになります。

出典:観光経済新聞「蓼科高原への検索数が277%増、アゴダが2026年夏のクールケーション需要を発表」

Trip.com Groupも2026年4月16日に、避暑地に関する検索数が2026年に入って前年同期比74%増、2025年6〜8月の夏季検索数は2024年同期比で最大約237%増になったと発表しています。こちらはグローバルの数字なので、日本国内の動きとしてそのまま読むことはできませんが、日本人旅行者に限った部分でも、季節が逆になるニュージーランドのホテル検索が前年比108%増、オーストラリアが50%増となっていました。

出典:Trip.com Group「アースデーを機に高まるクールケーション需要を発表」(2026年4月16日)

旅行者の意識のほうも同じです。JTBが2026年7月2日に発表した夏休み旅行動向では、今年の夏旅行で重視したいことの首位が「暑さを避け、屋内施設での観光や体験を楽しむ」の15.8%でした。次いで「花火大会など、夏季限定のイベントに参加する」が15.3%です。総旅行者数そのものは7,117万人で前年比95.4%と減っているので、旅行が増えたのではなく、行き先の中身が入れ替わったと見るのが正確だと思われます。

出典:JTB「2026年夏休み(7月20日~8月31日)の旅行動向」

背景には、記録として残る暑さがあります。気象庁は2026年8月3日、西日本の7月中旬と下旬の平均気温が統計を開始した1946年以降で最も高い記録になったと発表しました。東海では国内で初めて5日連続の酷暑日となり、40℃以上を観測した地点は8月3日時点で延べ34地点、2010年以降で最も多くなっています。

出典:気象庁「2026年7月中旬~下旬の顕著な高温と今後の見通しについて」(2026年8月3日)

需要は動いた。ここまでは、疑う余地が少ないところです。

では「クールケーション」で記事を書けばいいのか?

需要が動いたからといって、その言葉で記事を書くと外します。読者は、まだその言葉で探していないためです。

SEMrushの日本語データベースで調べると、「クールケーション」は検索ボリュームが取得できません。実質ゼロということです。一方で、旧来からある言葉のほうは、しっかりと数字を持っています。

キーワード 月間検索ボリューム(日本)
富良野 60,500
避暑地 27,100
酷暑日 14,800
夏休み 旅行 12,100
避暑地 ランキング 320
涼しい 旅行 110
クールケーション 取得できず(実質ゼロ)

ここで目を引くのが「酷暑日」の14,800です。この言葉も、一般に広まったのは2026年からの新語です。それなのに、クールケーションとの間に、これだけの差がついています。

なぜ「酷暑日」だけが、検索される言葉になったのか

「酷暑日」とは、日最高気温が40℃以上の日を指す気象庁の予報用語です。気象庁が2026年4月17日に正式に決定し、今シーズンから天気予報で使われるようになりました。

面白いのは、この言葉が気象庁の発明ではないという点です。もともとは日本気象協会が2022年に、気象予報士130名へのアンケートをもとに独自に命名して使っていた言葉でした。業界の中だけで4年間使われていた言葉が、公的機関に採用された途端、月14,800回検索される言葉になった、という順序です。

出典:日本気象協会 tenki.jp「気象庁、40℃以上の日の名称を『酷暑日』に決定」(2026年4月17日)日本経済新聞「気温40度以上は『酷暑日』 気象庁が新名称」(2026年4月17日)

言葉の出来が良かったから広まった、という話ではなさそうです。語感だけを比べれば、クールケーションのほうが覚えやすいくらいだと思います。

新語が定着するかは、何を見れば分かるのか

同じ2026年に世に出た2つの言葉を並べてみると、いくつか差が見えてきました。厳密な基準というより、私がこの2つを見比べていて「ここが効いていそうだ」と感じた点を、5つに整理してみます。

見ておきたい点 酷暑日 クールケーション
既存語で言い換えられないか 40℃以上を一語で言える語がなかった 「避暑」「避暑地」で足りてしまう
反復させる主体がいるか 気象庁と毎日の天気予報 事業者のプレスリリースが中心
生活者が使う場面があるか 天候の話題として日常的に使う 旅行を計画する短い期間だけ
先行市場で伸びているか 該当なし(国内固有の語) 英語のcoolcationも米国で月260件
世に出てから何年目か 命名から4年で予報用語化 2年目でまだゼロ

英語圏の数字も念のため見ておきました。「coolcation」は米国で月260件です。海外で先に使われていた言葉ですが、そちらでも大きくは立ち上がっていません。日本語でゼロでも英語で伸びていれば時間差で来る可能性がありますが、今回はその見込みも薄そうだと感じました。

このなかで、いちばん重いのは1つ目ではないでしょうか。既存の言葉で言い換えられてしまう新語は、他の条件がそろっても定着しにくいように見えます。避暑という言葉がある以上、生活者がクールケーションを覚える理由がありません。逆に酷暑日には、猛暑日では足りなくなった現実という、埋めるべき穴がありました。

2つ目についても、少し補足させてください。星野リゾートがクールケーションを掲げているのは、間違いではないと思われます。むしろ、あの規模のブランドだから成立する打ち手です。指名で検索される名前があると、人はまず「星のや」で入ってきて、その先で新語に出会います。言葉が先に知られている必要がありません。反復させる面を、自社で持っているからです。

関連:ChatHubに学ぶ、比較される市場に飛び込むより、比較される前に1位を取る戦略

3つそろっていない言葉に、どう乗るか

条件を満たしていない新語でも、無視はしません。需要そのものは実在しているためです。

私ならこうします。タイトルと見出しは「避暑地」「涼しい」「酷暑日」といった、すでに検索されている言葉で組みます。そのうえで、本文の中で一度だけ「こうした旅行スタイルは、クールケーションと呼ばれます」と説明語として置いておきます。新語を捨てるのではなく、置き場所を入口から本文の中へ移すという判断です。

この形にしておくと、定着しなかった場合も既存語で人が来ますし、数年後に定着した場合は、説明が本文に残っているぶん拾われる側に回れます。どちらに転んでも大きくは損をしない置き方ではないでしょうか。

絞るのはポジションであって、入口の看板ではない、という話とも近いところにあります。狙う場所は新しくてかまいません。ただ、看板だけは読者が知っている言葉で書いておく。そのほうが、人は歩いてきてくれます。

関連:「顧客を絞り込め」は本当か。新宿御苑のスタバで考える、絞るべきは顧客ではなくポジションという話

需要は先に動き、言葉は遅れて動く

夏の需要は、確かに海から高原へ移りました。ただ、その移動に名前が付いて、人々がその名前で探し始めるまでには、時間がかかるようです。酷暑日でさえ、業界の中で4年温められてから世に出ました。

上に挙げた5つの点も、法則というほど確かなものではありません。たまたま同じ年に生まれた2つの言葉を並べてみたら、こういう差が見えた、という程度のものです。それでも、新しい言葉を見かけて記事にするかどうか迷ったときに、少し考える材料にはなるかもしれません。来年の夏には、クールケーションが普通に検索される言葉になっている可能性も、まだ残っています。

検索順位だけでなく、顧客の頭の中にポジションを作る。そのポジションに付ける名前は、読者がすでに知っている言葉から借りるほうが、遠回りに見えて早いのだと思います。

なお、検索行動は生成AIの普及によっても変化の途中にあります。この記事で挙げた数字は2026年8月時点のもので、現時点における方向性の一つの判断材料として読んでいただければと思います。

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気象庁が2026年に定めた「酷暑日」は月14,800件検索される一方、旅行各社が2年掲げる「クールケーション」はほぼゼロ。同じ年の新語で差がついた理由と、定着しそうな言葉の見分け方を、実データから整理しました。