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テニス人口は4割減、でも米国は54%増。下がり続ける日本のテニス市場を、マーケターならどう立て直すか

社会人から始めたテニスが、それなりに面白い

私は趣味でテニスをしています。といっても子どものころからやっていたわけではなく、社会人になってからラケットを握ったタイプです。最初はボールにまともに当たらず、コートの隅で空振りを繰り返していました。それでも続けているのは、やってみるとこれがそれなりに面白いからです。

ただ、何年か通って思うのは、テニスは参入障壁が高いということです。ラケットもシューズもガットも要る。コートは予約が要る。ルールも独特で、最初の数回はラリーすら続きません。マーケターとして見ても、「最初の30分で楽しい」を味わう前に、越えるべきハードルが多すぎるように感じます。

しかも近年、日本のテニス市場は下がり目です。私自身、通っているスクールやコートが減っては困ります。なんとかならないかな、と一人で考えているうちに、これはマーケターとして真面目に向き合う価値のあるテーマだと思うようになりました。今回は、テニス業界を一人のプレーヤーとして、そしてマーケターとして盛り上げるならどうするか、という提案を書いてみます。壮大な話に聞こえるかもしれませんが、考え方そのものは、成果に悩むあらゆるメディアに当てはまるはずです。

日本のテニス人口は、ピークから約4割減っている

数字で見ると、危機感は決して大げさではありません。日本テニス協会の令和6年度 テニス環境等実態調査報告書によれば、成人のテニス実施率は2022年で2.6%、推計268万人。10代は2023年で4.0%、推計44万人。合わせて約312万人です。2000年代前半は400万人台後半から500万人ほどで推移していたので、この20年で人数にして約200万人、割合にして約4割が減ったことになります。

特に深刻なのが10代です。ピークだった2005年の約125万人から、2023年は約44万人へ。およそ3分の1の規模まで縮みました。若い入り口が細るということは、数年後の成人プレーヤーの母数が細るということです。穴の空いたバケツに水を足しても、たまりません。

ところが米国では、テニスが6年連続で伸びて過去最高になった

ここで面白いのは、同じテニスという競技が、海の向こうでは真逆の動きをしていることです。USTA(全米テニス協会)が2026年2月に発表したデータによると、米国のテニス人口は2025年に過去最高の2,730万人。6年連続の増加で、2019年と比べて54%、約1,000万人増えています。2035年には3,500万人を目標に掲げています。

つまり、テニスという競技そのものが古くて魅力を失ったわけではない、ということです。同じ競技で、日本は縮み、米国は伸びている。だとすれば、縮小の主因は競技ではなく、市場の作り方の側にあると考えるのが自然ではないでしょうか。

米国の成長を分解すると、主役はスターでも新リーグでもなかった

では米国は何で伸びたのか。ここが今回の肝です。

普通に考えると「スター選手が出たから」「派手な新リーグができたから」と思いがちです。ところが数字を分解すると、そうではありませんでした。USTAの2024年データの発表によると、その年の成長の約3分の2は35歳未満が、45%は25歳未満が牽引しています。さらに黒人・ヒスパニック・シニア・女性といった、これまで取りこぼしていた層の掘り起こしで伸びています。

牽引したのは、大きく二つだと分析されています。ひとつは、公共コートへの投資でアクセスのハードルを下げたこと。USTAは所得による参加の格差を縮め、誰にでも手の届くスポーツにするという方針のもとで、約1,000万ドル規模のコート整備に動いています。もうひとつは、テニスを「健康的で社交的な第三の場所」として位置づけ直したこと。短い時間で人とつながれる場として再定義したという戦略分析が出ています。

スター選手の登場は、注目を一時的に跳ね上げる効果はあっても、参加者を増やし続ける本体ではない。これは日本を見ればよくわかります。錦織選手や大坂選手の活躍があっても、日本のテニス人口は減り続けました。スターは「きっかけ」にはなっても、受け皿がなければ定着しない、ということだと思われます。

よく言われる主因(通説) データが示す実際の主因
スター選手の登場 35歳未満が成長の約2/3、25歳未満が45%。若年層と多様な層の掘り起こし
派手な新リーグ 公共コートへの投資(約1,000万ドル規模)でアクセスのハードルを下げた
一時的なブーム 「健康的で社交的な第三の場所」としての再定義・文化的な再ブランド

同じ時期、日本ではピックルボールが1年で約7倍に増えた

視野を広げると、日本でもラケットスポーツそのものが死んでいるわけではありません。むしろ隣で爆発しているジャンルがあります。ピックルボールです。

ピックルボールワン社の市場調査の推計によると、日本のピックルボール競技人口は2026年時点で約33万人。前年の約4.5万人から、1年で約7倍に増えています。ピックルボールに興味を持つ潜在層は約1,189万人、認知率はまだ13.1%。「これから広がる条件が揃った市場」という位置づけです。なお、この数字はピックルボール用品などを手がける事業者による推計なので、その点は割り引いて読む必要はあります。

伸びている市場には、当然、資本が集まります。実際、2026年4月にはアシックス・ベンチャーズ、Sansan、TBS、電通グループ、三井不動産という大手が、ピックルボールワンへの出資と連携を相次いで発表しました(日本経済新聞電通グループの開示)。2027年には大型の屋内施設も計画されています。誰の目にも「伸びている」と見えている市場は、こうして早い段階から取り合いが始まる、ということです。

競技 日本の競技人口(推計) 直近の動き 世界・米国の動き 市場の段階
テニス 約312万人(成人268万+10代44万) ピーク比約4割減、10代は約3分の1に 米国は逆に+54%・2,730万人 国内は成熟〜縮小
ピックルボール 約33万人(事業者推計) 前年比約7倍、潜在層1,189万人 米国は数千万人規模 急成長の初期
パデル 黎明期(数万人規模、出典により幅あり) 全国で40面ほど、大きな目標を掲げる段階 世界の検索関心+49%・90カ国超 黎明期

世界に目を移すと、パデルも伸びています。World Padel Network / SGI Europeのレポートによると、2025年の世界の検索関心は前年比+49%で過去最高、90カ国以上に広がっています。ただし日本ではまだ黎明期で、国内のパデル普及プロジェクトの発信を見ても、コートは全国で40面ほど、競技人口100万人・1,000コートを将来の目標として掲げている段階です。

面白いのは、同じラケットスポーツでも、立っている市場(国)によって優勢な競技が違うことです。世界の検索ではパデルがピックルボールを上回り、米国ではピックルボールが圧倒的、日本ではピックルボールが先行してパデルは黎明期。「自分がどの棚で戦っているか」を正確に見ないと、隣の国の景色をそのまま持ち込んで判断を誤ります。

検索の出方が、市場の「段階」を教えてくれる

マーケターとしてもう一段踏み込むと、検索ボリュームに市場の段階がはっきり出ています。今回SEMrushで実測したところ、「ピックルボール」という単体ワードは月間で11万回ほど検索されていました。一方で「ピックルボールとは」「ピックルボール ルール」はそれぞれ4,400回ほど。つまり多くの人は、まだ「これは何なのか」を知りたい段階にいます。

興味深いのは、「テニス ピックルボール 違い」「ピックルボール テニス どっち」といった比較系のキーワードが、現時点ではほとんど計測されないことです。市場が「どっちを選ぶか比べる」段階にはまだ来ていない、ということだと思われます。比較の需要は、市場がもう一段成熟してから立ち上がります。新興ジャンルは検索データに数字が出にくい傾向があるので、ここは今後の変化を見ていく前提ではあります。

キーワード 月間検索数(SEMrush・日本) 検索の段階
ピックルボール 約110,000 認知が急拡大中
ピックルボールとは/ルール 各約4,400 「これは何」の段階
パデル 約9,900 認知段階
テニス 初心者/ガット おすすめ 約1,000/1,300 既存の安定需要
テニス ピックルボール 違い など比較系 ほぼ計測なし 比較の需要はまだ未形成

この「認知段階」というタイミングが、実はチャンスです。みんながまだ「これは何?」と調べている段階で、正しいポジションの記事を置いておけば、市場が成熟したときに記憶のトップを取りやすくなります。

マーケターが動かせるもの、動かせないもの

ここまでをふまえて、テニス業界を盛り上げる打ち手を考えます。大事なのは、自分が動かせるものと、動かせないものを分けることです。

連盟や施設の側が動かす打ち手は、いち事業者やマーケターには重すぎます。スター選手は作れません。UTS(2020年にコーチのムラトグルーが創設したエンタメ型リーグ。8分4クォーター制、15秒のショットクロック、選手がマイクをつけ、カードで戦況を変えられる演出)のような新フォーマットも、連盟・投資家レベルの資本集約型の打ち手です。公共コートの整備も同じです。これらは「あったらいい」けれど、私たちのレバーではありません。

一方で、マーケターやコンテンツ事業者が直接動かせる層が、確かにあります。文化・コンテンツ・回遊の層です。

連盟・施設が動かす(事業者には重い) マーケター・コンテンツ事業者が動かせる
スター選手の発掘 「注目→体験→継続」へつなぐコンテンツ
新フォーマット・新リーグ(UTSのような資本集約型) 隣接ジャンル(ピックルボール等)からの回遊導線
公共コート・施設の整備 「ダサい→クール」へ記憶を置き換える再ブランドの物語
大規模な大会運営 初心者が最初の30分で楽しめる入門の設計・発信

順番をつけるなら、テニス本体の成長に効くのは「スター < 新リーグ < 社交・ライフスタイル・アクセス改革」の順だと考えます。米国が示したのは、勝ち筋はスター頼みでも豪華リーグでもなく、敷居を下げて社交の場にし、文化として語り直すことだ、という点です。そして、その文化・コンテンツの層こそ、私たちが動かせる場所です。

では、事業者が動かせる「本命の打ち手」は何か

隣の成長に乗って、本命へ送る

まず、ピックルボールの急成長を、テニスの敵ではなく入り口として使う発想です。月11万回検索される「ピックルボール」で関心を持った「ラケットに興味がある人」を、テニスの始め方・用具・体験会のコンテンツへ回遊させる。テニスを単独ジャンルで閉じず、ラケットスポーツ横断で捉え直すわけです。

これは正面から競合と奪い合うのではなく、隣で伸びている流れに乗って、自分の本命であるテニスの資産へ送り込む側面戦です。テニスは長くやってきたぶん、コンテンツも検索の蓄積もあります。その既存の資産を、新しい入り口とつなぐ。すでに持っているものを活かすという意味で、現実的な成長エンジンになり得ます。

「ダサい」を「クール」に変える

次に、テニスのイメージそのものを語り直すコンテンツです。海外では、テニスが「敷居の高いカントリークラブのスポーツ」から「クールな生活様式」へと再ブランドされつつあります。Z世代に広がる「テニスコア(tenniscore)」という美意識のもとで、ウィンブルドンの関連グッズ売上が前年比54%増という動きも紹介されています。US Openも、ファッションとエンタメの祭典として注目を集め、ESPNの発表によれば2025年の男子決勝はABCで平均300万人、前年比82%増と、直近10年で最も観られた決勝になりました。

ここはまさにSEO・SNS・動画で個人が攻められる領域です。「テニス=古い・敷居が高い」という記憶を、「テニス=健康的でクールな第三の場所」という記憶へ置き換えていく。これは資本ではなく、物語とコンテンツの仕事です。

最初の30分で楽しい、を設計する

最後に、入門のつまずきを取り除くコンテンツです。パデルが伸びたのは、小さなコートと展開の速さで、初心者でもすぐにラリーが続き、ゲームの楽しさを早く味わえるからだと言われています。テニスの構造的な弱点は、習得に時間がかかること。だからこそ、短縮スコアやラリー重視の入門メニュー、体験会の案内といった「最初の30分で楽しい」を設計し、発信するコンテンツは、定着率に直結します。私自身が空振りを繰り返していた頃に、こういう受け皿があればと思います。

では、あなたの会社のメディアはどの市場で、何を動かそうとしているのか

ここまでテニスの話をしてきましたが、構造は業種を問いません。自社の市場が縮んでいると感じたとき、まず見るべきは二つです。ひとつは、その縮小は市場全体の問題なのか、自分たちの市場の作り方の問題なのか。米国テニスが示したのは、多くの場合それは後者だ、ということです。もうひとつは、自分が動かせる層はどこか、ということです。

スターや新リーグやインフラは、たいてい動かせません。動かせるのは、隣の成長に乗る回遊導線、記憶を置き換える再ブランドの物語、最初の体験を楽しくする設計です。検索ボリュームを実測し、市場が認知段階なのか比較段階なのかを見極めれば、いま置くべきコンテンツが見えてきます。

縮小する市場のなかでも、伸びている隣のジャンルから人を集め、自分の本命のストーリーで定着させる。この二段構えは、テニスに限らず、成果に悩むメディアが取れる現実的な打ち手ではないでしょうか。

検索順位だけでなく、顧客の頭の中にポジションを作る。下がり目のテニス市場に対して私が考えているのは、つまるところそういうことです。

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