正直に言うと、一本を飲み切らないうちに、私の頭には見慣れた赤いラベルが浮かんでいました。「次はコカ・コーラを買おう」と。
話題の「ギルティ炭酸 NOPE(ノープ)」を飲んだときの、率直な感想です。マゼンタの派手なパッケージは確かに目を引きますし、面白い商品だとは思いました。ただ、私自身はもう一度買いたいとは感じませんでした。同じように体に良くない炭酸を飲むなら、私はコーラを選びます。
この一本が、発売から50日で5,500万本という数字を叩き出したと聞くと、私の感想は的外れに思えるかもしれません。ですが、売れていることと、顧客の頭の中に残ることは、別の話ではないでしょうか。今日はこの「NOPE」を題材に、ポジショニングの視点で少し考えてみたいと思います。
サントリー「ギルティ炭酸 NOPE」が、発売50日で5,500万本売れた
まず事実を整理します。「ギルティ炭酸 NOPE」は、サントリービバレッジ&フードが2026年3月24日に発売した炭酸飲料です。600mlペットボトルと自販機向けの340ml缶があり、600ml一本で336kcal、完熟フルーツやスパイスなど99種以上のフレーバーをブレンドしています(サントリー公式ニュースリリース)。同社が大型の新ブランドを出すのは2012年以来、14年ぶりのことです(MarkeZineの担当者取材)。
売れ行きは目を見張るものがあります。発売1週間で出荷2,000万本、50日で累計出荷5,500万本を突破し、サントリー炭酸飲料として令和最速のペースだと報じられています(食品産業新聞社ニュースWEB、ITmedia ビジネスオンライン)。「積み上げられた在庫が出荷されただけで、実際には売れていないのでは」という疑念も出ましたが、小売の購買データでは発売後4週連続でペットボトル炭酸カテゴリーの売上首位という実績も示されています(AdverTimes)。
初速という一点を見れば、これは見事だと思います。私が疑問に思っているのはそこではありません。この勢いのまま、NOPEは顧客の頭の中に新しい居場所をつくれるのか。そこが、今日の本題です。
飲んでみて感じたこと──私の頭の中では、これはコーラ系だった
飲んでみての実感を、もう少し具体的に書きます。爽快感でいえば、私にはコーラの方が上に感じられました。甘さは強く、フルーツとスパイスが混ざった独特の風味はありますが、飲み終えたときに「またこれを選ぼう」という気持ちにはならなかったのです。
つまり私の頭の中では、NOPEはコーラやそれに近い炭酸と同じ棚に入りました。もう少し健康を気にする日なら、コーラのゼロカロリー版や炭酸水を選びますし、ビタミンや栄養を補いたいなら、そういう機能系の炭酸を選びます。NOPEはそのどれとも少し違いますが、結局のところ「甘くて濃い炭酸」という大きな括りの中にいます。そしてその括りで最初に思い浮かぶのは、やはりコーラなのです。
これは私個人の感覚に過ぎないので、決めつけるつもりはありません。ただ、同じような受け止め方は他の人の声にも見られます。あるデザイナーは、飲んだ第一印象を「グレープ味のコーラ」と表現しています(107 Design note)。口コミ全体でも、比較対象としてドクターペッパーやチェリーコークが繰り返し挙がっており、多くの人の頭の中でも、NOPEは既存のコーラ系の棚に置かれているようにうかがえます(年代別の反応まとめ)。
作り手の狙いは「味」ではなく「ストレス溶解というシーン」だった
ここで作り手の意図を確認しておきます。実は、サントリーは味の種類で勝負しにいったわけではありません。
同社は、コーラや果汁炭酸といった従来の味の区分ではなく、「ストレス発散」というシーンを切り口にしたと説明しています(毎日新聞)。背景にあるのは炭酸市場の停滞です。飲料総研によると炭酸飲料市場はミネラルウォーターに匹敵する2億6,000万ケース規模を持ちながら、過去5年の平均成長率はほぼ横ばいで、特に若年層が離れつつあると言います(日経クロストレンド)。そこで同社は、一人でだらだら過ごす時間に飲んで「ストレスを溶かす」というギルティ消費の場面を掘り起こし、味の分類ではなくその場面で第一に思い出される炭酸を目指したわけです。担当者は取材で、これは新商品というより新しいカテゴリーを創造する取り組みだった、という趣旨を語っています(MarkeZine)。
この発想自体は、私はとても面白いと思います。競合と同じ土俵で味を競うのではなく、飲む場面という別の軸で棚を立てる。ライバルの認識をズラして自分の立ち位置を際立たせるという、ポジショニングの王道でもあります。
でも、そのシーンはすでにコカ・コーラが占めている
ただ、ここに引っかかりが残ります。「ストレスを溶かす」「気分転換する」「自分へのご褒美にする」という場面は、そもそもコーラが長年占めてきた場所でもあるのではないでしょうか。
アル・ライズとジャック・トラウトの整理を借りれば、人は情報過多のなかで、頭の中のカテゴリーの第一想起しか覚えていません。だとすると、シーンという新しい軸を立てても、そのシーンで最初に思い浮かぶ炭酸がコーラである限り、NOPEは「コーラの棚の中の変わり種」に収まってしまいます。作り手が「新しいカテゴリーだ」と宣言しても、カテゴリーを決めるのは作り手ではなく、顧客の頭の中の棚だからです。
同じ論点は、専門の書き手も指摘しています。東洋経済オンラインは「逆張りの戦略」としてこの商品を取り上げつつ、見出しで「王者コカ・コーラとのシェア差は埋まるか」と、まさにコーラとの距離を課題として置いています(東洋経済オンライン)。裏を返せば、NOPEはまだコーラの引力圏の中にいる、という見方だと思われます。
念のため補足すると、これはサントリーの取り組みを否定する話ではありません。話題化は明確にうまくいっています。私が言いたいのは、話題になることと、頭の中に新しい棚をつくることは、現時点では分けて考えた方がよい、ということです。
ドクターペッパーの方が、旗ははっきり立っている
比較として、ドクターペッパーを思い浮かべると分かりやすいと思います。
ドクターペッパーは、好き嫌いがはっきり分かれる独特の味で知られていますが、だからこそ「あの味」という覚えやすい旗が、味の軸にしっかり立っています。飲む人は、何を求めてそれを選ぶのかを自分で説明できます。
一方でNOPEは、口コミを見ると「クセになる」という声と「何味か掴めない」という声の両方が同じくらい存在します(みんなのレビュー)。味の軸で覚えてもらう旗と、ストレス溶解というシーンの軸で覚えてもらう旗を、同時に立てようとして、そのどちらも決めきれていない可能性があります。話題の初速は取れても、「これは何のための飲み物か」を一言で言えるようにならなければ、頭の中の棚は定まりにくいのではないでしょうか。
もし私が担当なら──ギルティなら量は増やさず、小さくする
ここからは、実務者としての違和感を一つ書かせてください。もし私がこのブランドを預かる立場なら、容量の設計を逆に振ると思います。
「ギルティ(後ろめたさ、つい手が出る)」という気持ちに一番合うのは、たっぷり飲むことではなく、少しだけ、こっそり楽しむことではないでしょうか。ダイエット中の「チートデイ」のように、欲望に負けてついやってしまう、という現代的な後ろめたさが、この消費の核にあるはずです(この読み解きは東洋経済オンラインの西山守氏の記事が参考になります)。だとすれば、600mlという大容量は、その心理とむしろ噛み合わない気がします。あの大きさは、正直に言うと、仕事中のデスクの上に置いておきたいサイズではありません。
私なら、コーラのミニ缶のような小さいボトルにします。「少しだけならいいか」という罪悪感消費の心理にも合いますし、社会人がデスクの片隅に置いて、午後の一区切りにひと口飲む、という場面にも収まります。シーンで戦うと決めたのなら、容量とシーンの設計まで揃っていた方が、立ち位置はもっと鮮明になったのではないでしょうか。あくまで一つの見立てですが、ポジションを研ぐとはこういう細部の話だと考えています。
話題になることと、定着することは別
ここまでの話を、一つの言葉にまとめます。話題になることと、定着することは、別の話です。
象徴的なのは、担当者自身がNOPEの発売時の勢いを2012年の「オランジーナ」になぞらえていることです(ITmedia)。そのオランジーナは、当時大きな話題になりましたが、現在は休売とされています(Wikipedia)。初速の勢いが、そのまま長期の定着を約束するわけではない、ということだと思われます。NOPEが掲げる中長期の目標は年間2億4,000万本とされており(ITmedia)、本当の勝負はむしろこれからです。
オウンドメディアに置き換えると──単発のバズより、一貫した立ち位置
この話は、自社メディアの運用にそのまま当てはまります。
一本の記事がSNSで跳ねること自体は、悪いことではありません。ですが、跳ねた記事が一度読まれて終わりなら、それは出荷5,500万本と同じで、初速の数字に過ぎません。読者の頭の中に「この分野ならこのメディア」という棚が残らなければ、次にまた選んでもらえる保証はないのです。
大事なのは、味の派手さ(=単発の話題性)ではなく、「これは何のためのメディアか」を一言で言い切れる立ち位置と、それを崩さずに続けることだと思われます。ライバルはいずれ現れますが、同じ立ち位置で書き続けられる会社はほとんどありません。続けること自体が、そのまま参入障壁になります。私が記事の本数よりも、狙ったキーワードで上位を取り、その順位を守り続けることにこだわるのも、ここに理由があります。
まとめ
NOPEの初速は見事でした。ですが、私が飲んで感じたのは、これはコーラの棚の変わり種であって、まだ新しい棚を勝ち取ったとは言い切れない、ということです。定着するかどうかは、話題が落ち着いたこれから先で決まります。
自社メディアで本当に効いてくるのは、一度きりの話題ではなく、顧客の頭の中に居場所をつくれるかどうかです。検索順位だけでなく、顧客の頭の中にポジションを作る。私たちが大切にしているのは、まずその一点です。













